おはようございます。
ちょっと古い(半年前くらいの)トピックなんですが、看過できないものを見かけました。そこで所感をまとめておきます。
【経済産業省】:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
どうも、あまりにも問題が多すぎるレポートです。
ですから『本文』.PDF の 27 ページに話を絞って、分析します。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
『(注)経済損失の算出根拠』からの文章を、じっくりとお読みください。
私見では、まことしやかに数字を列挙しながら「試算」を進めている、この注釈。
論理的な妥当性には、かなり乏しいです。
この「試算」は、3 つの統計調査の引用でできあがっています。
ですが、それらを並べて試算している、そのやり方が微妙にオカシイのです。
まず、これは前提として(仕方なく、)仮に許しましょう。
1. > データ損失やシステムダウン等の システム障害により生じた 2014 年 1 年間の損失額は国内全体で約 4.96 兆円。
つまり、既に 5 年前の段階で年間あたり約 5 兆円の損失を(レガシー系に代表される基幹系システムは)計上している訳です。
次に、ここが要注意です。
2. > (1)セキュリティ 29.1%、
> (2)ソフトの不具合 23.1%、
> (3)性能・容量不足7.7%、
> (4)人的ミス 18.8%、
> (5)ハードの故障・不慮の事故 19.7%。
> レガシーシステムに起因して起こる可能性があるのは、仮に、このうち (1)・(2)・(3)・(5) とすると、合計 79.6%。
まず、ここに挙げられた原因 5 つの数値を合算しても 98.4 % です。
つまり 100 % には 1.6 % 足りません。
「その他」に相当するものが何故か除外されていると思しい。
その上で、(1)・(2)・(3)・(5) を合算すると、ようやく件の数字 “79.6 %” が出てくるのですが、何故、原因 (4) を勝手に除外しているのか、そこに妥当な理由は明記されていません。レガシーシステムは、昨今流行の A.I.技術(ML/DL 系)とは違って、人間のオペレーションで動かされるはずです。そこに RPA を適用できるならば、多少はミスの確率も減るでしょうが、実装のバグや仕様外のトラブルなど、やはりミスの確率はゼロにはできません。
つまり、実は『人的ミス』は、これらのシステム・ダウンの原因の基調となる根本的原因として作用しているのです。
にもかかわらず、
> これらを踏まえ、レガシーシステムに起因したシステム障害による経済損失は、現段階 で、最大で 4.96 兆円×79.6%=約 4 兆円/年にのぼると推定。
とするのは、論理的誤謬にほかならない。
さらに、
3. > 企業が保有する「最も大きなシステム」(≒基幹系システム)が、21 年以上前から稼働 している企業の割合は 20%、11 年~20 年稼働している企業の割合は 40%。仮に、こ の状態のまま 10 年後の 2025 年を迎えると、21 年以上稼働している企業の割合は 60% になる。
とありますが、ここを好意的に読解すると、当該調査に回答した企業群で動いている基板系システムにおいて、「11 年以上」稼働しているレガシー・システムが、すでに現行においても(約) 60 % 存在している。そして、それは、この調査の行われた 2016 年から考えると 10 年後、2025 年にはそのまま「21 年以上」稼働して居るであろう、との推測になります。
ここは比較的妥当な推論だと、レガシー系について個人的体験があるものですから思うのですが、だからといって、「21 年以上になったシステムがトラブルを起こす」というのも実は短絡で、単純に設計や開発、運用保守が悪いシステムはいつでもトラブルを、しかも確率的にクリティカルなトラブルを引き起こすものです。そのシステム自体が老朽化すれば尚更でしょう。
ですから、ここで「20 %」であったものが「60 %」になるかも知れないので、トラブル・リスクも 3 倍になる、というのは、実はまともな推測ではありません。もっと非道い筈です。
そして、このページの結論は、
> これらを踏まえ、レガシーシステムに起因するトラブルリスクも3倍になると推定 すると、レガシーシステムによる経済損失は最大で約 12 兆円/年にのぼると推定。
となっていますが、ここまでお読みいただいた方たちにならお分かりいただけるように、この推定に基づく試算の積算根拠はおそろしく脆弱です。
わたしはこの試算が、現状をすら過小に見積もっている蓋然性が高い、と考えます。
つまり、今回の『注釈』はこのように読み替えたほうが、まだ正しそうです。
“これらを踏まえ、レガシーシステムに起因するトラブルリスクも3倍【以上】になると推定 すると、レガシーシステムによる経済損失は最大で約 12 兆円/年【以上】にのぼると推定。”
わたしは以前から、『霞ヶ関文学』的な『試算』の積算根拠を疑ってきました。
でも、ちょっと素直に読んでみるだけで、これだけの誤謬が混入している。
それがこの日本国の政策決定を左右している。
………暗澹たる気分です。
そうは思いたくありません。
ですが、このような低レヴェルの仕事を許すような余地が、すくなくとも経済産業省にあるのならば、あとは推して知るべし………「一事が万事」ではないことを真剣に祈るものですが………手遅れでしょうね。
ちょっと古い(半年前くらいの)トピックなんですが、看過できないものを見かけました。そこで所感をまとめておきます。
【経済産業省】:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
どうも、あまりにも問題が多すぎるレポートです。
ですから『本文』.PDF の 27 ページに話を絞って、分析します。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
『(注)経済損失の算出根拠』からの文章を、じっくりとお読みください。
私見では、まことしやかに数字を列挙しながら「試算」を進めている、この注釈。
論理的な妥当性には、かなり乏しいです。
この「試算」は、3 つの統計調査の引用でできあがっています。
- 情報処理推進機構(ベースは他社による調査)
- 日経 BP 社「日経コンピュータ 2017.8.3」の記事
- 日本情報システム・ユーザー協会「企業 IT 動向調査報告書 2016」
ですが、それらを並べて試算している、そのやり方が微妙にオカシイのです。
まず、これは前提として(仕方なく、)仮に許しましょう。
1. > データ損失やシステムダウン等の システム障害により生じた 2014 年 1 年間の損失額は国内全体で約 4.96 兆円。
つまり、既に 5 年前の段階で年間あたり約 5 兆円の損失を(レガシー系に代表される基幹系システムは)計上している訳です。
次に、ここが要注意です。
2. > (1)セキュリティ 29.1%、
> (2)ソフトの不具合 23.1%、
> (3)性能・容量不足7.7%、
> (4)人的ミス 18.8%、
> (5)ハードの故障・不慮の事故 19.7%。
> レガシーシステムに起因して起こる可能性があるのは、仮に、このうち (1)・(2)・(3)・(5) とすると、合計 79.6%。
まず、ここに挙げられた原因 5 つの数値を合算しても 98.4 % です。
つまり 100 % には 1.6 % 足りません。
「その他」に相当するものが何故か除外されていると思しい。
その上で、(1)・(2)・(3)・(5) を合算すると、ようやく件の数字 “79.6 %” が出てくるのですが、何故、原因 (4) を勝手に除外しているのか、そこに妥当な理由は明記されていません。レガシーシステムは、昨今流行の A.I.技術(ML/DL 系)とは違って、人間のオペレーションで動かされるはずです。そこに RPA を適用できるならば、多少はミスの確率も減るでしょうが、実装のバグや仕様外のトラブルなど、やはりミスの確率はゼロにはできません。
つまり、実は『人的ミス』は、これらのシステム・ダウンの原因の基調となる根本的原因として作用しているのです。
にもかかわらず、
> これらを踏まえ、レガシーシステムに起因したシステム障害による経済損失は、現段階 で、最大で 4.96 兆円×79.6%=約 4 兆円/年にのぼると推定。
とするのは、論理的誤謬にほかならない。
さらに、
3. > 企業が保有する「最も大きなシステム」(≒基幹系システム)が、21 年以上前から稼働 している企業の割合は 20%、11 年~20 年稼働している企業の割合は 40%。仮に、こ の状態のまま 10 年後の 2025 年を迎えると、21 年以上稼働している企業の割合は 60% になる。
とありますが、ここを好意的に読解すると、当該調査に回答した企業群で動いている基板系システムにおいて、「11 年以上」稼働しているレガシー・システムが、すでに現行においても(約) 60 % 存在している。そして、それは、この調査の行われた 2016 年から考えると 10 年後、2025 年にはそのまま「21 年以上」稼働して居るであろう、との推測になります。
ここは比較的妥当な推論だと、レガシー系について個人的体験があるものですから思うのですが、だからといって、「21 年以上になったシステムがトラブルを起こす」というのも実は短絡で、単純に設計や開発、運用保守が悪いシステムはいつでもトラブルを、しかも確率的にクリティカルなトラブルを引き起こすものです。そのシステム自体が老朽化すれば尚更でしょう。
ですから、ここで「20 %」であったものが「60 %」になるかも知れないので、トラブル・リスクも 3 倍になる、というのは、実はまともな推測ではありません。もっと非道い筈です。
そして、このページの結論は、
> これらを踏まえ、レガシーシステムに起因するトラブルリスクも3倍になると推定 すると、レガシーシステムによる経済損失は最大で約 12 兆円/年にのぼると推定。
となっていますが、ここまでお読みいただいた方たちにならお分かりいただけるように、この推定に基づく試算の積算根拠はおそろしく脆弱です。
わたしはこの試算が、現状をすら過小に見積もっている蓋然性が高い、と考えます。
つまり、今回の『注釈』はこのように読み替えたほうが、まだ正しそうです。
“これらを踏まえ、レガシーシステムに起因するトラブルリスクも3倍【以上】になると推定 すると、レガシーシステムによる経済損失は最大で約 12 兆円/年【以上】にのぼると推定。”
わたしは以前から、『霞ヶ関文学』的な『試算』の積算根拠を疑ってきました。
でも、ちょっと素直に読んでみるだけで、これだけの誤謬が混入している。
それがこの日本国の政策決定を左右している。
………暗澹たる気分です。
そうは思いたくありません。
ですが、このような低レヴェルの仕事を許すような余地が、すくなくとも経済産業省にあるのならば、あとは推して知るべし………「一事が万事」ではないことを真剣に祈るものですが………手遅れでしょうね。
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