スキップしてメイン コンテンツに移動

瀧本哲史ゼミ 五月祭 講演会(2018) 聴講レポート

瀧本哲史ゼミ 五月祭 講演会(2018) 聴講レポート


【注:】此の記事は旧ブログからの転載です。


みなさま、たいへん御無沙汰しております。
いろいろと私事に多忙となっておりました。
ようやくひと段落、といったところです。


きょうは『現役東大生 VS 東大OB最年少副市長』と銘打たれた講演会を聴講してきました。
この機会に触発されて、いろいろ思うところを多少記しておきます。

本日の『プレゼン合戦』を貫くテーマは EBPM (Evidence-based Policy Making)です。

これまで属人的なエピソードによって左右されてきた政策決定に於いて、きちんと統計的エヴィデンスに基づいて「要衝を攻略するように効果的に施策を実施する」ための手法です。

ここで御存知の方は御存知の EBM (Evidence-based Medicine)、つまり『根拠に基づく医療』が先駆する形でありますが、英語版 Wiki を見ると分かるように『根拠に基づく政策』は、EBM の公共政策分野全般への拡張的応用概念と見られています。

“Conceptually the term has been seen as an extension of the Scientific method or evidence-based medicine to all areas of public policy.”
https://en.wikipedia.org/wiki/Evidence-based_policy

ここでは RCT (Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)という医療系・心理学系などではお馴染みの

“評価のバイアスを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法”

が重要となっています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ランダム化比較試験



本日の講演ではまず、毛塚 幹人 つくば市副市長からの事例報告のかたちで、RPA (Robotic Process Automation)の御紹介がありました。役所にかぎった話ではありませんが、バックオフィス系業務において、定型処理であるにもかかわらず多くの労力を浪費するような業務というものはあるものです。ですが、毛塚副市長は民間企業 3 社と連携した共同研究というかたちで実証実験を先行させた結果、以下の成果を上げました。

“ 茨城県つくば市は10日、民間企業と進めていた単純業務の自動代行システム「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)の共同研究で、約8割分の業務削減効果があったと発表した。市は本格導入に向けて対象業務を広げる考えで、費用を6月補正予算案に計上する。
 RPAはあらかじめ決めたルールに基づき、同じ作業を自動的に実行できるソフトウェア。市がNTTデータなど3社と契約し、1月~4月上旬に共同研究が行われた。市によると、RPAを民間企業と共同研究する自治体はほかにないという。”
【朝日新聞】 行政の単純業務、自動代行ソフトで8割減 茨城・つくば
https://digital.asahi.com/articles/ASL5B4K02L5BUJHB00L.html


わたしは偶々、情報科学(CS)を大学で修め、3DCG designer や SE+PG としての職歴があります。
私的な理解では、今回の報道の要点は「定型処理についてバッチ処理を導入した」と思しいです。
住民票とかは電子化されているはずですから、役所の窓口などで「税金の申告」や「住民への通知発送」などの業務について申請されたら、氏名入力からの住所候補選択で DB を検索して、当該の名前や住所を一発で埋めて(同姓同名が居るならば候補となる選択肢リストを出すなど補助して)、職員が本人に確認すれば、その場で、発送用帳簿を作成すること——登録レコードの追加のようにして——など容易いことです。

逆にいうと、この程度のことすらこれまで出来ていなかった、というか

“発送簿を作る際、これまで職員は名前や住所などを手作業でパソコン上のエクセルに貼り付けていた”

というのだから驚きです。EXCEL から DB (データベース)へ検索クエリーを投げれば容易に、補完的に、その他の付随情報を埋められる筈なのに。あるいは、はっきりいって DB に別テーブルを設け、そこに「(今回の)出力用フラグ」を立てるだけで済むんですがね、どう考えても。



さて。
このあと、瀧本ゼミ生たち 4 名が代わるがわる EBPM に則った政策提言プレゼンを行いました。

“本日の討論:

  1. あなたの行動が命を救う! 突然、心停止した人を救うには!?
  2. 様々なアレルギーを引き起こすとされるアトピー性皮膚炎! 1日数回〇〇をするだけで、予防できる!?
  3. 実は多くの人に関係がある!? 〇〇を早期発見することで、子供の才能をうまく育てるには?
  4. 「日本は世界で一番赤ちゃんが安全に生まれる国」は本当? あなたの行動が赤ちゃんを救う!

> どれも、あなたの働きかけで、社会が変わります”


興味深い惹句が並んでますね。
それぞれのタイトルを眺めただけで、察しのいい方は「あ、あれのことだろうな」と思われるでしょう。
事後ですので、さっと各テーマについて明記しておくと、

  • AED 装置の効果的配置と使用法の啓蒙・普及
  • アトピー性皮膚炎の引き起こす連鎖的アレルギーの、早期からの対策実施による防止
  • 自閉症スペクトラムを抱えた児童の早期発見と早期対策の有効性
  • 児童虐待の多発にたいする、危機的家庭の早期発見と、その親への啓蒙教育による有効性

といったところでした。

各論については『瀧本ゼミ政策分析パート』が YouTube にライヴ映像を残しているので、そちらを御参照いただくことにして。
(補注: YouTube はライヴだったので、現在は見られないようです。)


さて、本日の講演会から、自分が得られた知見をまとめてみます。
世に「マインドマップ」と呼ばれる樹形図構造の可視化手法がありますね。
たとえば、問題解決のロジックツリーとして、仮にこの「マインドマップ」を使うことを考えてみましょうか。
勿論、同一の leaf node に重複する接続が発生する場合も許すとして。
なんでもかんでも MECE で漏れなくダブりなく尽くすことができればいいのですが、現実はそこまで単純化できないケースもあるので。

そうやって問題を解析したマインドマップに時間的・空間的・人的・労力的・資金的などなどのコストを追記していくのです。レイヤーを重ねていって比較/弁別しやすくしておくのがイイかも知れませんね。そうやって「エネルギーの流れ」が速いところ、滞っているところなどを分析します。
そうすると、どこかにコスト・センターになっているような node、つまりボトルネックを見つけることは、比較的容易なはずです。
あるいは、いま、カイゼンしたい業務群のなかで、いちばん対策をすることによるコスト・パフォーマンスが高い業務を選び出し、そのカイゼンを実現するようなクリティカル・パスを見つけることも、比較的容易なはずです。
ということは重点対策すべき root nodes —— critical path ——も容易く見つけられるでしょう。

さきの RPA というプロセス半自動化処理の導入事例の指し示すものは、

  1. 当該領域における問題構造を可視化して
  2. コスト・センターになっているようなボトルネックを明示化し
  3. そこに適切な水準の、いわば「枯れた技術」を適用することで
  4. 大幅にコストを低減し、そこで得られた余力を第二、第三のボトルネック解消へと転用していく

と、まとめることができるでしょう。


ここで、本日の講演会では

  • 縦割りセクショナリズムの間隙に落ちてしまっているような事例の救済の必要性(対策によるコスト・パフォーマンスが大きい)
  • 官民協働の実証実験のような体裁からプロジェクトをスタートさせることで、機動性を高めたプロジェクト実施を行い、ある程度の目算が立ってから予算措置を行う
  • エヴィデンスが定量化できるような調査を設計する
  • 被害最小化のための予防原則にもとづき、問題当事者の割り出しを公的アンケート(e.g. 問診票)のようなかたちで行い、早期に第三者介入(e.g. 啓蒙教育)をすることで被害を事前に低減する
  • Touch point (接点)を持ちうる key players は誰なのか、事前に問題の骨格・構造・構図を検討して、そこからアクセスする
  • ロビイングする際に、政策決定者側が容易に受け容れられるように、事前に政策パッケージをエヴィデンス付きで構成する
  • もともとの慣性というか惰性が大きい分野なので、基本的に政策転換が難しい、という現状を踏まえて、政策の取捨選択の転換が可能になるような説得材料を整備する

といった論点も触れられていました。


閑話休題。
ちなみに Code for Japan というムーヴメントがあります。
これは IT 屋の知見で、地方自治体の問題を調査・分析し、かんたんなプログラミングによって地域コミュニティーや行政の負荷減少の助けをしよう、という運動です。
よくある話ですが、米国を筆頭とした海外が先行しております。
もしかすると、法学や政治学、社会学に明るい面々と、テクノロジーやサイエンスに明るい面々が協業すると、興味深い alchemy が実現できるかも知れませんね。


ちょっと本業との兼ね合いや、「仕事」のための一般教養をアップデートしなおす、といった観点から放送大学での学業などもありますが、


  • 悪循環スパイラルから好循環スパイラルへ


のキャッチフレーズのもと、自分にできる道を模索していこうと思っております。

コメント

このブログの人気の投稿

恐るべき凋落

今晩和。 とある界隈では有名な、大庭亀夫氏のブログに『満州という原泉』なる記事がアップされました。 https://gamayauber1001.wordpress.com/2018/12/04/manchuria/ ここで気になるのが次の引用です。 “しかもしかも、日本の経済は戦後最長の空前の好景気を続けながら市場の実質は縮退をつづけて、例えば株式市場でいえば、8%くらいのところにまでちぢんで来ているはずで、このことには実は重大な意味があって、以前ならば日本の経済あるいは財政が崩壊するなんてとんでもないことで、そんなことをされると、世界中が巻き込まれて大変な惨劇になってしまう。” 何を?と思ったので、いつものように『世界銀行』のデータでチェックしてみました。 そうすると、将に大庭氏の言うとおりだったのです。 これは実質的に 1975 年から現代(2015 年)までの、『世界の株式市場取引高』国別推移です。 ここでは 2017 年度と範囲外になっていますが、次のページのランキング上位 4 ヵ国を抜き出して、推移を比較してます。 https://www.globalnote.jp/post-12184.html こうして比較してみると、米国がアップ・ダウンがありながらも順調に成長しているのに対して、中国が猛追を仕掛けています。そこで低迷を続けて居るのが日英の2 ヵ国。ちょっと電卓を叩いてみると、2017 年度で、日本のマーケット・プレゼンスは約 8 %まで凋落しています。 先程の大庭氏ブログに戻って引用を続けると、 “ところが、いまくらいの大きさの経済にまで総体として小さくなってくれると、「条件によっては、なんとかなるかな?」というところまで来ている。 しかも例えば国債の買い手を見ればわかるが、日本の経済は、そういう言い方をすれば極めて特殊で、本来、国の経済を破壊する方向へ働くプレッシャーが、個々の国民の生活を破壊する方向へ自動的に転換されるように出来ている。 国がデフォルトになる前に、国民個々の生活がデフォルトになるなんて、冗談じみているが、日本という国にあっては現実なんです。” わたしは兼ねてから危機を予想していましたが、このようなかたちで怖れていた危機が顕在化していたことに率直に驚いています

霞ヶ関文学の劣化ぶりを垣間見る——『一事が万事?』——

おはようございます。 ちょっと古い(半年前くらいの)トピックなんですが、看過できないものを見かけました。そこで所感をまとめておきます。 【経済産業省】:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~ https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html どうも、あまりにも問題が多すぎるレポートです。 ですから『本文』.PDF の 27 ページに話を絞って、分析します。 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf 『(注)経済損失の算出根拠』からの文章を、じっくりとお読みください。 私見では、まことしやかに数字を列挙しながら「試算」を進めている、この注釈。 論理的な妥当性には、かなり乏しいです。 この「試算」は、3 つの統計調査の引用でできあがっています。 情報処理推進機構(ベースは他社による調査) 日経 BP 社「日経コンピュータ 2017.8.3」の記事 日本情報システム・ユーザー協会「企業 IT 動向調査報告書 2016」 ですが、それらを並べて試算している、そのやり方が微妙にオカシイのです。 まず、これは前提として(仕方なく、)仮に許しましょう。 1. > データ損失やシステムダウン等の システム障害により生じた 2014 年 1 年間の損失額は国内全体で約 4.96 兆円。 つまり、既に 5 年前の段階で年間あたり約 5 兆円の損失を(レガシー系に代表される基幹系システムは)計上している訳です。  次に、ここが要注意です。 2. > (1)セキュリティ 29.1%、 > (2)ソフトの不具合 23.1%、 > (3)性能・容量不足7.7%、 > (4)人的ミス 18.8%、 > (5)ハードの故障・不慮の事故 19.7%。 > レガシーシステムに起因して起こる可能性があるのは、仮に、このうち (1)・(2)・(3)・(5) と

複数の時系列データの因果関係が分かる(?)

今日和。 さて、独学ブログとして本来の路線へ。 本日は、 沖本 竜義 著『経済・ファイナンスデータの計量時系列分析 』から。 何故ならば、個人的に「時系列データ」の分析に多くの興味を持っているからです。 そこで本業が手薄な期間をつかって勉強しています。 その最中で、おもしろいモデル化手法を知りました。 “VAR モデル” のことです。 この界隈では有名な TJO 氏が解説しているので、その投稿記事へのリンクを貼ります。 本投稿は、多くを以下の 2 リンクを中心とした TJO 氏記事に参考にしてます。 https://tjo.hatenablog.com/entry/2013/07/25/194546  https://tjo.hatenablog.com/entry/2013/07/30/191853 沖本本、第 4 章冒頭から多少強調のために改変しつつ引用します。 “ベクトル自己回帰(VAR)モデル は、 自己回帰モデルを多変量に拡張したもの である。VAR モデルを用いる目的は主に 2 つで 1 つは 複数の変数を用いて予測精度の向上を図る ことであり、 もう 1 つは 変数間の動学的関係の分析を行う ことである。 特に、変数間の動学的関係の分析に関して、VAR モデルは グレンジャー因果性   インパルス応答関数 分散分解 という強力なツールを提供でき、推定も容易であるので、80 年代以降、マクロ経済学やファイナンスの分野で頻繁に利用されるようになった。本章では、 多変量のデータの動学的関係を分析する上で非常に重要なモデル である VAR モデルについて述べる。 ” このなかで、わたしが注目したのは 『インパルス応答関数』 です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/インパルス応答 “インパルス応答(英語: impulse response)とは、インパルスと呼ばれる非常に短い信号を入力したときのシステムの出力である。インパルス反応とも。インパルスとは、時間的幅が無限小で高さが無限大のパルスである。実際のシステムではこのような信号は生成できないが、理想化としては有益な概念である。” 何故、これが有益かというと、以下の具体例から御理解いただけるかと。